ナラティブ研修ってどんなもの? | 東邦大学医療センター大森病院看護部レポート | 看護師のまど


2010/05/20更新

ナラティブ研修ってどんなもの? | 東邦大学医療センター大森病院看護部レポート

安全で質の高い看護を提供するため教育に力を入れている東邦大学医療センター大森病院。新人のためのプリセプターシップをはじめ、中堅からベテランスタッフの心をケアする研修も取り入れているそう。教育専任の師長と4年目ナースに、教育制度のポイントを教えてもらいました。

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ナラティブの文字通りの意味は「朗読による物語り」。心に残る看護体験を他者に語ることで、自分自身や日々の看護の仕事について振り返ることが目的なんだとか。実際に、どのように行われているかチェックしてみました。

想いを語ってやりがいを見つける

ポジティブフィードバックによって実践能力の評価を行う「キャリア開発レビュー」を実施している大森病院。4年前にナラティブ研修を取り入れたのは、他者からのフィードバックだけでなく自身の実践について振り返り、しっかりとした看護観を築くためだという。

教育担当者がファシリテーター(促進者)として意見を引き出す。
教育担当者が
ファシリテーター(促進者)
として意見を引き出す。

ナラティブとは「語ること」「叙述すること」という意味だが、数人で会議を行うカンファレンスとは大きく異なる。カンファレンスがより良いケアを実践するための情報共有であるのに対して、ナラティブ研修は「私の想い」を語ることが目的。

印象に残る看護体験を「私」がどう思ったか語ることで、自分が大切にしてきたことがわかるのだとか。看護のやりがいや楽しさを実感しながら、自分なりの看護観、目指していきたい方向を探ることができる。

現任教育担当 看護師長 田村 清美さん

現任教育担当 看護師長 田村 清美さん
現任教育担当 看護師長
田村 清美さん

患者さんへの想いを言葉にすることで、本人も気付いていなかった感情が溢れ出すことがあります。上田さんのような4年目の中堅ナースも、15年以上の経験があるベテランナースでも、それぞれに語れることはあるはず。その人にしか体験できなかった、その人だからこそ体験できた事例を共有、共感することが成長に繋がると思っています。

消化器外科病棟4年目 上田 沙織さん

消化器外科病棟4年目 上田 沙織さん
消化器外科病棟4年目
上田 沙織さん

私は毎日の看護の中で「もっとできたはず」「ああしてあげればよかった」という後悔ばかり。でも、ナラティブ研修に参加して自分のやってきたことを語ることで、気持ちの整理ができてスッキリしました。また、ほかの出席者の方から私の仕事を認めてもらって、とても低かった自分への評価を少しアップできたのも嬉しかったです!

上田さんのナラティブレポートを特別公開!
患者さんの「あなたは妻の親友ですね」という言葉の意味とは?

「妻の親友」

上田 沙織

私が看護師をしていてよかったと思える瞬間は、やはり患者さんからの感謝の言葉である。中でも一番印象にある出来事は、A氏を担当した時の事である。A氏は病院嫌いということもあり、来院時には進行した下部消化管癌がみつかり、穿孔の危険もあるため即日緊急で人工肛門増設となった。

手術帰室直後より、術後せん妄を発症。攻撃性の強いせん妄であり、連日医療者に対し怒鳴り散らして感情をぶつけていた。医療的知識を持っている方であり、処置や治療に対して曖昧な説明では納得されず、細かい説明を求めるが、自分で理解できない範囲になると混乱してしまい、聞く耳を持たなくなってしまう。術後せん妄かとも思われたが、数日経過しても状況は変わらなかった。手術や環境変化によるせん妄なのか、元々の性格なのか判断が難しく、A氏への関わりにスタッフみんなで試行錯誤していた。

私は、A氏の事はもちろん、毎日献身的に介護する妻の事が心配であった。これまでの夫婦関係は亭主関白で、妻も夫を頼りにしている状況であった。しかし入院後は妻の介護なしでは生活できない状況となり、妻は自分がしっかりしなくてはいけないという思いが強く、A氏の前では気丈に振舞っていた。私は妻の不安が少しでも減るように、一人で抱え込まないように、妻と毎日色々な話をした。A氏の様子、妻の様子、二人の今までの暮らし、私自身の事など、妻と私はベッドサイドで毎日楽しく話をした。A氏自身が会話に入ってくる事はなかったが、いつも私たちの会話を聞いているようだった。

そうしているうちに、徐々にA氏に変化が生じてきた。パウチ交換や離床などで声をかけると、「妻と相談してやって下さい」と言うようになった。これまで筋の通らない事は嫌い、納得されないと行動できないという性格であり、その頑固さが入院治療を進めていく中で大きな障害となっていた。しかし、入院に伴い自己の能力の低下を自覚し、少しずつ自己概念の変化が生じてきたようであった。妻を全面的に信頼し、妻を頼りにしていた。私は直接A氏と話すよりも、妻との会話の中でA氏に私の思いを伝える事が有効であると考えた。そこで、「Aさんが自宅に帰れるように、歩行訓練をしたいと思っている」「退院後、訪問看護等の導入をしてみてはどうか」というように、妻に私の思いを話す事でA氏に思いを伝えていった。すると、自然とA氏も会話に参加するようになり、自分の思いを話すようになった。

そんなある日、ふとA氏が「あなたは妻の親友ですね」と言った。私はこの言葉がとても嬉しかった。「自分は妻のそばにいることもできず、支えてあげる事ができない。だけど、あなたがその代わりをしてくれている」そんな意味が込められていたのではないかと師長が話してくれた時、さらにその言葉の重みを感じ、感激した。私はこの時、患者さんをサポートする事、ご家族をサポートする事がどういう事なのかを知ったように思う。A氏にとって妻はかけがえのない存在であった。その妻と信頼関係を築き、親友のように何でも話せる関係を築いた事で、A氏は私を信頼してくれたのだと思う。患者さんとの信頼関係を築くことは難しいことではあるが、色々な面からアプローチし、根気強く向き合う事で、糸口が見つかるのだということを実感できた体験であった。

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