国家試験合格対策ドリル(2022〜2023)Vol.4 判断プロセスに重点を置いて体系的に知識をまとめよう

国家試験合格対策ドリル 第3回

皆さんの中には、基礎を問う出題が増えたとしても、その基礎事項をなかなか定着させることができない、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は、厳しい言い方かもしれませんが、看護系の学校を目指そうと決心したときの気持ち、つまり初心に立ち戻って、国試と向き合っていただければと思います。国試の勉強を、たんなる受験勉強にせず、看護職に必要な知識を身につける機会ととらえ、知識が増えることを楽しんでいきましょう。

患者さんに説明しているかのようにして勉強を進めましょう

国試の究極的な勉強法は、勉強している事柄について、あたかも自分が患者さんを目の前にして説明しているかのようなイメージを思い描いて、知識をまとめておくことです。いずれ皆さんは、患者さんとたえず向き合っていくことになります。その場合の真剣さを、勉強のときから意識しておくことも必要です。説明できる能力は、改定出題基準でも、明示はされていませんが、求められていると言えます。

学んだことは、そのままでは身につきません。「学んで時にこれを習う、また説(よろこ)ばしからずや」という言葉が『論語』にあります。学んだことを、折にふれて繰り返し学習することによって身につけてゆくのはなんと楽しいことではないか、ということです。学んだ知識を臨床の場で確実なものにしていきましょう。

このような勉強は、本当の意味でのアクティブ・ラーニングであると言えます。考えさせるようになってきた出題傾向にもアクティブに取り組んでいきましょう。

新出題基準から分かること

新出題基準では、「標準的な学生用教科書」「看護基礎教育」ということが強調されています。今後は、国試対策本ばかりを使う受験対策を中心にするのではなく、「教科書」に回帰した、堅実な看護教育の観点から、国家試験が実施されていく可能性があります。

なお、出題基準とは別に、医道審議会から出された報告書では、「既出問題は、引き続き活用する。必修問題では、より積極的に既出問題を活用していく」と明言されました。受験生は、よく、過去問はもう出題されないと思い込んでいますが、過去問を見ておく必要があります。

また、出題基準とは別に、だいぶ前から、「看護における判断プロセス」が出題のキーワードになっています。医道審議会の報告書でも、「看護師国家試験においては、根拠に基づいたアセスメントや計画立案に基づく看護実践における思考や判断プロセスを問う問題が出題されている。引き続き、この方針で出題することが望ましい」と明記されています。このことを意識して、実習等に取り組みましょう。

新出題基準で試験問題が作成されるのですが、実は、この出題基準というのは、あくまで、試験問題を作成する側の基準であって、試験を受ける側に向けての基準ではない、ということに注意が必要です。

しかも、新出題基準によると、中項目が、実際の「出題の範囲」であることが明言されました。これまでは、小項目が出題の基本と思われていて、そこに新しい項目が入れば、それに注目していたのですが、今回の明言で、小項目は、あくまで出題項目の例に過ぎない、ということになりました。

示された中項目を見る限り、以前と余り変わっていませんから、出題内容は、基本的に「これまでとほぼ同様」であると考えられます(これは、裏のことを考えると、新型コロナへの対応で忙しいため、問題を作成している時間などはなく、出題範囲を変えることなく、過去問を利活用していく、ということかもしれません。このようなわけで、過去問に取り組まないと、損をする可能性が高い、ということになります)。

とは言っても、小項目に新しい項目が入っていれば、やはり気になります。ここでは、そのような新項目でありながら、すでに第111回で出題されたものをみて、今後の参考にしたいと思います。

【例題1】 第111回午前21《必修問題》

成人の静脈血採血で適切なのはどれか。
1. 採血部位から2、3cm中枢側に駆血帯を巻く。
2. 血管の走行に合わせ60度の角度で刺入する。
3. 採血後は刺入部位を圧迫しながら抜針する。
4. 刺入部位は5分以上圧迫し、止血する。

【正答】 4

採血後の観察内容、採血に関連する有害事象は、新出題項目となっています。

駆血帯は、穿刺部位から、5~10cm上方(中枢側)で巻くと、静脈血の還流を止めることとなり、末梢の静脈が怒張して、穿刺部位の選定が容易になります。

どうしても血管が出にくい場合には、血圧を測定し、最低血圧程度に圧迫すると、最も静脈のうっ血状態が強くなり、血管が怒張しやすい状態となります。

駆血帯を締める場合の圧は、通常は、40mmHg程度とされています。強く締め過ぎると、静脈が完全に圧迫されてしまい、皮下出血などを生じることがあります。この、上腕の圧迫によるうっ血を2分間以上続けると、血液組成に変化が生ずる(血液凝固が起こり、血清クロール値(Cl)が低下する、血液比重が増加する、など)ため、縛ったら、できるだけ速やかに採血し終えるよう心がけます。

消毒が乾いたことを確認してから、針先の刃面を上に向け、皮膚に対して15度程度の角度で刺入します。このとき、患者さんに手のしびれや強い痛みがないかを必ず確認します。針先が血管腔に入ったことを確認したら、血管腔内を進ませる感覚で奥に刺入していきますが、血管を突き抜けてしまう恐れがありますので、針を奥に進ませるのは5 mm程度です。

穿刺部を、ずれないようにしっかりと固定し、真空採血管の場合はしっかりとホルダーに差し込みます。採血本数が多く、手技に慣れていない場合は、テープで翼状部分を固定します。シリンジの場合も同様に、穿刺部が、ずれないように注意しながら、ゆっくりと血液を引いていきます。これは、注射器内筒を強く引いてしまうと、針先に血管が吸い付いて乱流が生じ、血液の溶血が起こる可能性があるためです。

真空採血管、シリンジともに必要量を採取した後は、採血管内の抗凝固剤などによる、薬剤の影響があるため、必ずゆっくりと混和します。

必要本数を採り終えたら、ホルダーから採血管を抜き、その後、駆血帯を外します。採血管内で薬剤に触れた血液が、血管内に引き込まれる危険性があるため、順番を間違えないように注意します。シリンジの場合は、十分な血液量に達したことを確認してから駆血帯を外します。

消毒綿で刺入部を軽く押さえながら、針を抜き、廃棄容器に直接捨てます。その後、患者さんに説明し、真上から3~5分程度、圧迫止血してもらいます。抗凝固薬を服用している患者さんには、圧迫時間を長めに伝えます。

圧迫止血後に、完全に止血されているか、皮下出血の有無、神経症状の有無などを確認します。

【例題2】 第111回午前56

Aさん(83歳)は寝たきり状態で、便意を訴えるが3日間排便がみられない。認知機能に問題はない。昨晩下剤を内服したところ、今朝、紙オムツに水様便が少量付着しており、残便感を訴えている。
このときのAさんの状態で考えられるのはどれか。

1. 嵌入便
2. 器質性便秘
3. 切迫性便失禁
4. 非急性感染性下痢

【正答】 1

下剤と止痢薬は、新出題項目となっています。

嵌入便は、直腸性便秘の一つで、直腸内に硬い便が溜まってしまい、自力で出すことができなくなった状態です。便意があっても訴えられなかったり、認知症や寝たきりの人などに多くみられます。直腸に長期間詰まっていた便の表面が溶けて流れ出し、便失禁となります。いつも下着に少量の便が付着して汚れている場合は、嵌入便を疑います。

高齢者施設では、便秘対策として下剤が投与されることが多く、その結果、便秘→(下剤)→下痢→便失禁→(止痢薬)といった悪循環が発生しています。不適切な下剤投与は、多くの高齢者に身体的、心理的、社会的苦痛を与えています。

【例題3】 第111回午後87

動脈硬化症の粥腫形成に関与するのはどれか。2つ選べ。
1. Langerhans〈ランゲルハンス〉細胞
2. メサンギウム細胞
3. 血管内皮細胞
4. 肥満細胞
5. 泡沫細胞

【正答】 3、5

閉塞性動脈硬化症は、新出題項目となっています。

動脈硬化は、動脈壁への代謝産物の病的沈着などによって、壁細胞の増殖、再構築などをきたし、動脈壁が肥厚・硬化した状態を言います。

動脈硬化のうち、最も多いのはアテローム性動脈硬化です。

以下、そのメカニズムをみます。

動脈の血管は、内側から、内膜・中膜・外膜によって構成されます。アテローム性(粥状)動脈硬化は、血管内膜に、脂質や平滑筋細胞、細胞外基質などの沈着物の病的集積が起き、粥状の隆起性病変を形成する反応を言います。徐々に、あるいは、ときに急速に進行し、プラークの肥厚による血管内腔の狭窄や、その破綻に続いて、血栓形成による狭窄・塞栓をきたします。

① 血管内膜へのさまざまな刺激によって、内皮が傷害され、そこに血中のLDL(悪玉コレステロール)が侵入します。内膜内では酸化を受けやすく、酸化LDLとなります。
② 酸化LDLは内皮細胞を活性化し、白血球接着分子や単球遊走刺激因子を産生させます。これによって、単球・Tリンパ球が障害部位に集まります。
③ 単球・Tリンパ球の接着・侵入が起こり、単球は内膜に侵入するとマクロファージに分化します。
④ マクロファージはスカベンジャー受容体を介して酸化LDLを大量に取り込み、脂質を蓄積した泡沫細胞となります
⑤ 泡沫細胞が集まることで、内膜にコレステロール結晶など、脂肪沈着による病変(脂肪線条)を形成します。
活性化された内皮細胞や泡沫細胞が、さまざまなサイトカイン、遊走因子、増殖因子を産生します。これが、平滑筋細胞の、中膜から内膜への遊走を促進します。
⑦ 内膜に侵入した平滑筋細胞は増殖し、また、コラーゲンなどの細胞外基質を分泌するため、プラークは肥厚します。
⑧ 平滑筋細胞の増殖やコラーゲンの蓄積などによって、プラークは線維性被膜で覆われます。内部では、泡沫細胞や平滑筋細胞の一部が死滅し、脂質に富んだプラークの中心(脂質コア)が形成されます。

【例題4】 第111回午前35

地域連携クリニカルパスの目的はどれか。
1. 医療機関から在宅までの医療の継続的な提供
2. 地域包括支援センターと地域住民との連携
3. 地域医療を担う医療専門職の資質向上
4. 患者が活用できる社会資源の紹介

【正答】 1

地域連携クリニカルパスは、これまで何度か出題されていますが、改めて、新出題項目と考えてよいと思われますし、今後、頻出項目となるでしょう。

地域連携クリニカルパスとは、医療機関における急性期から回復期、退院後の在宅医療まで継続した医療を提供できるように診療計画を作成し、関係する全医療機関で共有して用いるものをいいます。

疾患別の標準的なクリニカルパス(診療計画表)に沿って、地域との連携を図ったクリニカルパスです。記載内容は、医師の治療計画のみならず、リハビリテーション計画なども含むものです。

地域連携クリニカルパスは、平成18年(2006年)度の診療報酬改定から、地域連携診療計画管理料、地域連携診療計画退院時指導料として、評価されるようになっています。

地域包括ケアシステムは、在宅療養を支援する仕組みとして中心をなすものとなりました。団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、高齢者が、重度な要介護状態となっても、可能な限り、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していくことになっています。それに伴い、介護医療院や共生型サービス事業所(高齢者と障害児者)が創設されることになりました(平成30年より)。

学習方法の工夫も大事です。基礎となる解剖生理学から病態生理学や看護技術へとリンクさせることをドリルの第2回で取り上げましたが、疾患や治療法を勉強しているときは、逆に、その根拠を解剖生理学などに求めてみましょう。もちろん難しいですから、一部で構いません。このような工夫は改定出題基準への対応ともなります。


蜂谷正博 メビウス教育研究所 塾長

蜂谷 正博 メビウス教育研究所 塾長、
東都大学客員教授、岐阜医療科学大学客員教授

日本赤十字看護大学をはじめ全国の看護学部、看護専門学校、薬学部で看護師・保健師・薬剤師国家試験対策講座を担当。著書に『必修ラ・スパ』など。元東京大学大学院医学系研究科客員研究員。

メビウス教育研究所:http://www.mebius-ed.co.jp/

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