国家試験合格対策ドリル(2023〜2024)Vol.1 国試の準備は春休みから

国家試験合格対策ドリル(2023〜2024)第1回

第112回の出題から学びたいこと

第112回は、全体的に、レベルの高い問題が多くなりましたが、その分、良問が多かったように思われます。一つの問題の項目について、複数の選択肢を取り得るような出題がなされ、問題状況に即して、その中から、適したものを選ぶといったような、工夫がなされているものが多く見られました。こうなると、知識を整理して憶えている受験生に有利になります。ただし、その分、不適切問題に限りなく近い問題もいくつかありました。第113回を受験される方は、この第112回での出題に十分に取り組んで、問題形式の把握をしておく必要があります。
第112回の出題における特徴の一つは、過去問と類似した問題が多数出題されたことです。実は、令和3年(2021年)3月31日に厚生労働省の医道審議会から公表された「保健師助産師看護師国家試験制度改善検討部会報告書(令和3年3月31日)」に、「既出問題の活用は、難易度の安定化の観点からも有用であり、引き続き活用する。看護師国家試験における(中略)必修問題においてはより積極的に既出問題を活用していく。」とあり、それが実際に行われたということになります。受験生は、よく、過去問はもう出題されないと思い込んでいますが、過去問をベースとした学習を行う必要があります。以前から、5回前ルールと言われていて、第112回では、第108回の過去問を中心に、それより過去数年分、類似した出題がなされたように思われます。第113回を受験される方は、第109回前後の過去問に取り組んでおくとよいでしょう。
第112回の最大の特徴として、これまでになく、「病態」や「病理」について、きちんと整理して出題されていることがあげられます。第112回から、新出題基準によって、問題が作成されていますが、「疾病の成り立ちと回復の促進」については、「看護基礎教育における基本的な知識として学ぶ疾患について項目を整理・追加」とあり、このようなことを意識して、問題が作成されているように思われます。また、これまでは、用語を持ち出さないようにしていた事項について、第112回からは、用語として明確化していることにも注意してください。よって、「基本的で代表的な疾患」ごとに、症状や看護をまとめておく必要があります。そして、疾患ごとに、「病態関連図」を、自分の手を動かして作成し、よく把握しておきましょう。

【例題1】 第112回午前94(改変)

Aさん(28歳、女性、美容師)はゴルフが趣味である。同居しているパートナーと1週前にゴルフに行った後から、顔面の紅斑、微熱、全身倦怠感および手指の関節痛が現れた。病院を受診したところ、全身性エリテマトーデス〈SLE〉と診断され入院した。Aさんは看護師に「これまで病気をしたことがなかったので、驚いています」と話した。

バイタルサイン:体温37.4 ℃、呼吸数18/分、脈拍64/分、整、血圧110/60 mmHg。
血液所見:赤血球260万/μL、Hb 9.0 g/dL、白血球7,600/μL、血小板18万/μL、尿素窒素16 mg/dL、クレアチニン0.8 mg/dL、CRP 0.7 mg/dL、直接Coombs〈クームス〉試験陽性。
尿所見:尿蛋白(-)、尿潜血(-)。
神経学的検査:異常所見なし。
12誘導心電図:異常所見なし。
胸部エックス線写真:異常所見なし。

Aさんに生じている可能性が高いのはどれか。

1. 心膜炎
2. 溶血性貧血
3. ループス腎炎
4. 中枢神経ループス

【正答】 2

選択肢は、いずれも、全身性エリテマトーデス〈SLE〉の症状です。これまでの出題の仕方ですと、「ループス腎炎」をキーワードとして、他はSLE以外の症状が選択肢になっていましたが、本問は、すべてSLEに関連する症状が選択肢になっており、第112回全体において、このような出題の仕方が多くなっています。このような良問を使って学習をすることが望ましいと言えます。

この状況設定問題で注目すべき検査値は、「赤血球260万/μL」と「Hb 9.0 g/dL」です。基準値は、赤血球は、男:400万~550万/μL、女:350万~500万/μLで、Hbは、男:14~18 g/dL、女:12~16 g/dLです。よって、血液所見に関連する「溶血性貧血」が正答になります。これは、末梢での赤血球の破壊によるものです。

なお、中枢神経ループスはCNSループスとも表現され、重症となることが多いです。

【例題2】第112回午前61

排卵のある正常な月経周期で正しいのはどれか。
1. 黄体は形成後1週間で萎縮する。
2. エストロゲンの作用で子宮内膜が分泌期になる。
3. 発育した卵胞の顆粒膜細胞からプロゲステロンが分泌される。
4. エストロゲンのポジティブフィードバックによって黄体形成ホルモンの分泌が増加する。

【正答】 4

第112回の母性看護学分野からの出題は、すべて基本的な事項について問うていますが、正確で確実な知識を要求するものばかりで、あやふやな勉学を許さないという精神に貫かれています。

本問の場合、月経周期は、看護学生なら、一通り、詳しく学ぶはずですが、教員が、基礎をきちんと教えてくれていないと、太刀打ちできない問題となります。

まず、次のことが分かっていないと、理解が進みません。
  卵胞期 → 黄体期

卵胞期
・・・子宮内膜の増殖期に対応
   卵胞ホルモン(エストロゲン)
黄体期
・・・子宮内膜の分泌期に対応(基礎体温では高温相)
   黄体ホルモン(プロゲステロン)

主席卵胞の成熟に伴い、エストロゲンのポジティブフィードバック(大量のエストロゲン、少量のプロゲステロン)によって、黄体形成ホルモン〈LH〉の分泌が増加します。これは、LHサージのことで、排卵が促され、黄体形成となります。

卵巣の黄体からプロゲステロンが分泌されます。

プロゲステロン(黄体ホルモン)の作用で子宮内膜が分泌期になります(黄体期)。

黄体期は約2週間ですが、黄体は、形成後、約12日で萎縮します。

【例題3】第112回午前34

医療計画について正しいのはどれか。
1. 基準病床数を定める。
2. 5年ごとに見直しを行う。
3. 特定機能病院の基準を定める。
4. 一次、二次および三次医療圏を設定する。

【正答】 1

数回前から、いわゆる社会保障分野は、かなり難しい問題が出題されるようになっています。

医療計画とは、医療法の第30条に基づいて、都道府県が、厚生労働大臣の定める基本方針(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図るための基本的な方針)に即して、地域の実情に応じた医療提供体制を確保するために策定する計画です。

医療計画は、昭和60年の医療法改正により導入され、医療資源の地域的偏在の是正と医療施設の連携推進を目的に、二次医療圏(一般の入院に係る医療を提供することが相当である単位)ごとの基準病床数を記載事項とすることとされました。

医療計画は5年ごと(平成30年の第7次医療計画からは6年ごと(介護保険事業支援計画が3年を1期とすることになったこととの整合性を確保するため))に見直しすることとされ、平成20年の第5次医療計画では疾病構造の変化に対応した医療体制を確保するため、4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)・5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む。))に関する具体的な医療連携体制の構築に関する記載が追加されました。平成25年の第6次医療計画からは精神疾患および在宅医療が追加され、現在は5疾病5事業および在宅医療に関する記載が必須となっています。また、令和3年の医療法改正により、第8次医療計画からは「新興感染症等の感染拡大時における医療」が追加され、5疾病6事業および在宅医療に関する記載が必須となりました。

先輩たちから情報を集めよう

春休みは、こうして、先輩たちの体験を聴き出すことができる絶好のチャンスです。先輩たちからの情報収集に励みましょう。どのように教科書に取り組んだか、どこの予備校の講座がよかったか、模擬試験をどのように活用したか、などの情報が特に大事です。うまくいった体験よりは、うまくいかなかった体験を参考にさせていただくと、失敗を回避することができます。


蜂谷正博 メビウス教育研究所 塾長

蜂谷 正博 メビウス教育研究所 塾長、
東都大学客員教授、岐阜医療科学大学客員教授

日本赤十字看護大学をはじめ全国の看護学部、看護専門学校、薬学部で看護師・保健師・薬剤師国家試験対策講座を担当。著書に『看護・医療系のためのからだと病気の基礎知識』(東京化学同人)など。
元東京大学大学院医学系研究科客員研究員。

メビウス教育研究所:http://www.mebius-ed.co.jp/

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