国家試験合格対策ドリル(2021〜2022)Vol.1 国試の準備は春休みから

国家試験合格対策ドリル(2021〜2022)第1回

第110回の出題から学びたいこと

ここ数回に引き続き、国試対策本に余り載っていない事項を特に出題しているような印象を受けます。
⇒ 教科書に立ち戻って、知識を補うようにします。
第110回の出題における最大の特徴は、看護者の判断の根拠となる評価(アセスメント)基準診断基準についての出題が圧倒的に増えたことです。
⇒ これまでは、看護技術についての問題がだんだん増えてきていたのですが、おそらくは、コロナ禍の影響で、医療機関や介護施設での臨地実習ができなくなったことから、看護技術についての出題に取って代わって、評価基準や診断基準についての問題が多く出題されることになったものと考えられます。現在の出題基準になる数年前から、「看護における判断プロセス」がキーワードになっていたのですが、このことに関する問題がいよいよ本格的に出題されるようになったということでもあると考えられます。今後も、この傾向は続くでしょう。
また第110回では、まとまった知識をセットとして整理して憶えておくことが必要な出題もいくつか見られましたので、勉強の仕方に反映させておきましょう。

【例題1】 第110回午前90

身体的フレイルの評価基準はどれか。2つ選べ。
1. 視力低下
2. 体重減少
3. 聴力低下
4. 歩行速度の低下
5. 腸蠕動運動の低下

【正答】 2、4

フレイルとは、体がストレスに弱くなっている状態のことを指します。しかし、早く介入をすれば元に戻る可能性があります。フレイルとは、海外の老年医学の分野で使用されている「frailty(フレイルティ)」に対する日本語訳で、「frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などになります。日本老年医学会は、「フレイル」という共通した日本語訳にすることを2014年5月に提唱しました。

体重減少、疲労感、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下の5項目のうち、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合はフレイルの前段階であるプレフレイル、該当項目が0の場合は健常、と判断します。

加齢に伴う変化や慢性的な疾患によってサルコペニアという状態となり、筋肉量・筋力の減少によって基礎代謝量が低下すると、1日のエネルギー消費量が減って、食欲が低下し、食事の摂取量が減少して低栄養となります。

【例題2】 第110回午後44

Aさん(34歳、女性)は、気管支喘息で定期的に通院をしている。朝から喘息発作があり呼吸困難が生じたため、救急外来を受診した。
経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉95 %、動脈血血液ガス分析(room air)で動脈血酸素分圧〈PaO2〉90 Torr、動脈血二酸化炭素分圧〈PaCO2〉55 Torr、pH 7.30、HCO3 25 mEq/Lであった。
Aさんの状態で考えられるのはどれか。

1. 呼吸性アシドーシス
2. 呼吸性アルカローシス
3. 代謝性アシドーシス
4. 代謝性アルカローシス

【正答】 1

この問題では、動脈血血液ガス分析の結果を参照しなくても、喘息発作があり呼吸困難が生じ、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉95 %である、ということから、「呼吸性アシドーシス」と解答できます。

ただ、勉強としては、血液ガス分析からの評価基準を把握しておきたいものです。酸塩基平衡のアセスメントは、まず、pHを見ます。化学の場合と異なり、pHが7のときに中性というのではなく、基準値は7.4±0.05で、pH 7.35以下の場合が酸血症(アシデミア)で、pH 7.45以上がアルカリ血症です。

次に、pH変化の原因である「PaCO2」と「HCO3」を見ますが、PaCO2は肺による酸塩基平衡の調整因子で、二酸化炭素は酸、基準値は40±5(35~45)Torrです。HCO3は重炭酸イオンで、酸を中和し、腎による酸塩基平衡の調整因子ですが、基準値は24±2(22~26)mEq/Lです。PaCO2は基準値よりも高いですから、呼吸性アシドーシスであることが分かります。HCO3は基準値の範囲内で、しかも、呼吸器系の疾患であることから、これは考慮しなくても大丈夫ということになります。

【例題3】 第110回午前109

Aさん(29歳、初産婦)は、妊娠37週0日で2,780 gの男児を正常分娩で出産した。出生後5分の児の状態は、心拍数150/分、四肢を屈曲させて啼泣している。顔面を清拭されると激しく啼泣し、全身はピンク色である。
このときの児のApgar〈アプガー〉スコアは何点か。

1. 10 点
2. 8 点
3. 6 点
4. 4 点

【正答】 1

アプガースコアは、発案者の名前になぞらえた、以下の5つの評価基準について、2点、1点、0点の3段階で点数づけをし、合計点で判定します。日本では、1960年代から使用。

Appearance – 皮膚の色
··· 2点:全身がピンク色、1点:チアノーゼ、0点:全身が青紫色
Pulse – 心拍数
··· 2点:100/分以上、1点:60/分以上100/分未満、0点:60/分未満
Grimace – 刺激に対する反応
··· 2点:強く泣く、1点:弱く泣き出す、0点:反応しない
Activity – 活動性
··· 2点:活発に四肢を動かす、1点:少し四肢を動かす、0点:弛緩
Respiration – 呼吸
··· 2点:強く呼吸、1点:弱く呼吸、0点:呼吸しない

生後1分と5分に、上記の5項目について評価を行い、その合計点によって下記のように判定します。5分値が7点未満の場合には、7点以上になるまで5分ごとに20分まで記録するのが望ましいとされています。

7点以上
··· 正常
4~6点
··· 第1度仮死(軽度新生児仮死)
0~3点
··· 第2度仮死(重症新生児仮死)

現在の新生児蘇生法では、遅延なき有効な人工呼吸の重要性が強調されており、アプガースコアの評価を待つことなく蘇生を開始します。初期処置を行った後も「自発呼吸なし」または「心拍数100/分未満」の児に対しては、出生後60秒以内にバッグ・ マスク換気による人工呼吸を開始するようになっています。

アプガースコア1分値が低くても予後とは関連しません。アプガースコア5分値が低いことは神経学的予後と関連することが報告されていますが、個々の症例の神経学的予後の指標にはなりません。アプガースコアが低くなるにつれて、新生児死亡率が増加し、スコアが非常に低い場合に早期に死亡するとされています。

例題の解き方は、「全身がピンク色(淡紅色)」で2点、「心拍数150/分」で2点、「顔面を清拭されると激しく啼泣」で2点、「四肢を屈曲」で2点、「(四肢を屈曲させて)啼泣」で2点で、合計10点となります。

【例題4】 第110回午前34

尿失禁の種類と対応の組合せで正しいのはどれか。
1. 溢流性尿失禁 ───── 排尿間隔の記録
2. 機能性尿失禁 ───── 骨盤底筋訓練
3. 切迫性尿失禁 ───── 下腹部への軽い刺激
4. 反射性尿失禁 ───── 間欠的自己導尿

【正答】 4

尿失禁は、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁がよく挙げられていますが、この問題では、「反射性尿失禁」が問われています。

反射性尿失禁は、脊髄損傷などでみられ、膀胱が全く抑制されずに収縮し、尿道に不随意な弛緩が起こるため、膀胱に尿がたまると反射的に排尿が起きてしまうものです。この尿失禁に対応するものは「間欠的自己導尿」となっていますが、反射性尿失禁への対応が記述されていない文献が多いです。しかしながら、これは、脊髄損傷などへの対応で行われる、という知識があれば解答できるものです。

溢流性尿失禁は、尿が出にくくなる排尿障害が必ず前提にあり、自分で尿を出したいのに出せない、でも尿が少しずつ漏れ出てしまう、というものです。機能性尿失禁は、排尿機能は正常にもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症が原因でおこり、歩行障害のためにトイレまで間に合わない、あるいは認知症のためにトイレで排尿できない、といったケースで、介護や生活環境の見直しをする必要があります。切迫性尿失禁は、急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまったり、頻尿になったりするもので、脳血管障害などにより、排尿コントロールがうまくいかないことが原因になりますが、多くの場合、特に原因がないのに膀胱が勝手に収縮する過活動膀胱がおこり、トイレの不安があると外出を控えることになって自信がなくなり、生活の質が下がりますが、抗コリン薬が有効です。腹圧性尿失禁は、重い荷物を持ち上げた時、咳やくしゃみをした時、笑った時など、腹部に力が入って尿が漏れてしまい、これは骨盤底筋群という尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が緩むために起こり、加齢や出産を契機に出現したりします。

先輩たちから情報を集めよう

春休みは、こうして、先輩たちの体験を聴き出すことができる絶好のチャンスです。先輩たちからの情報収集に励みましょう。どのように教科書に取り組んだか、どこの予備校の講座がよかったか、模擬試験をどのように活用したか、などの情報が特に大事です。うまくいった体験よりは、うまくいかなかった体験を参考にさせていただくと、失敗を回避することができます。


蜂谷正博 メビウス教育研究所 塾長

蜂谷 正博 メビウス教育研究所 塾長、東都大学客員教授

日本赤十字看護大学をはじめ全国の看護学部、看護専門学校、薬学部で看護師・保健師・薬剤師国家試験対策講座を担当。著書に『必修ラ・スパ』など。元東京大学大学院医学系研究科客員研究員。

メビウス教育研究所:http://www.mebius-ed.co.jp/

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