国家試験合格対策ドリル(2023〜2024)Vol.4 判断プロセスに重点を置いて体系的に知識をまとめよう

国家試験合格対策ドリル 第4回

皆さんの中には、基礎を問う出題が増えたとしても、その基礎事項をなかなか定着させることができない、と感じている方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は、厳しい言い方かもしれませんが、看護系の学校を目指そうと決心したときの気持ち、つまり初心に立ち戻って、国試と向き合っていただければと思います。国試の勉強を、たんなる受験勉強にせず、看護職に必要な知識を身につける機会ととらえ、知識が増えることを楽しみましょう。

患者さんに説明しているかのようにして勉強を進めましょう

国試の究極的な勉強法は、勉強している事柄について、あたかも自分が患者さんを目の前にして説明しているかのようなイメージを思い描いて、知識をまとめておくことです。いずれ皆さんは、患者さんとたえず向き合っていくことになります。その場合の真剣さを、勉強のときから意識しておくことも必要です。説明できる能力は、改定出題基準でも、明示はされていませんが、求められていると言えます。

学んだことは、そのままでは身につきません。「学んで時にこれを習う、また説(よろこ)ばしからずや」という言葉が『論語』にあります。学んだことを、折にふれて繰り返し学習することによって身につけてゆくのはなんと楽しいことではないか、ということです。学んだ知識を臨床の場で確実なものにしていきましょう。

このような勉強は、本当の意味でのアクティブ・ラーニングであると言えます。考えさせるようになってきた出題傾向にもアクティブに取り組んでいきましょう。

新出題基準から分かること

新出題基準では、「標準的な学生用教科書」「看護基礎教育」ということが強調されています。今後は、国試対策本ばかりを使う受験対策を中心にするのではなく、「教科書」に回帰した、堅実な看護教育の観点から、国家試験が実施されていく可能性があります。

なお、医道審議会から出された報告書では、「既出問題は、引き続き活用する。必修問題では、より積極的に既出問題を活用していく」と明言されました。受験生は、よく、過去問はもう出題されないと思い込んでいますが、過去問を見ておく必要があります。

また、出題基準とは別に、だいぶ前から、「看護における判断プロセス」が出題のキーワードになっています。医道審議会の報告書でも、「看護師国家試験においては、根拠に基づいたアセスメントや計画立案に基づく看護実践における思考や判断プロセスを問う問題が出題されている。引き続き、この方針で出題することが望ましい」と明記されています。このことを意識して、実習等に取り組みましょう。

新出題基準で試験問題が作成されるのですが、実は、この出題基準というのは、あくまで、試験問題を作成する側の基準であって、試験を受ける側に向けての基準ではない、ということに注意が必要です。

しかも、新出題基準によると、中項目が、実際の「出題の範囲」であることが明言されました。これまでは、小項目が出題の基本と思われていて、そこに新しい項目が入れば、それに注目していたのですが、今回の明言で、小項目は、あくまで出題項目の例に過ぎない、ということになりました。

示された中項目を見る限り、以前と余り変わっていませんから、出題内容は、基本的に「これまでとほぼ同様」であると考えられます(これは、裏のことを考えると、新型コロナへの対応で忙しいため、問題を作成している時間などはなく、出題範囲を変えることなく、過去問を利活用していく、ということかもしれません。このようなわけで、過去問に取り組まないと、損をする可能性が高い、ということになります)。

第112回では、キーワード化して覚えておく必要のある事項、例外的な知識、用語として明確にされた事項が多く出題されましたので、実際に問題を見てみましょう。

【例題1】 第112回午前57

1歳6か月の身体発育曲線(体重)を示す。

異常が疑われるのはどれか。

【正答】 3

この問題は、1歳6か月児の体重の増加について考えてみる問題ですが、知識として、「1歳6か月児の体重は、1年間で約2 kg増加する」ということをキーワード化しておかないと、正答に至らないかもしれません。

すなわち、「1歳6か月児の体重は、1年間で約2 kg増加する」というのは、横軸の月齢で6か月と18か月に対応する縦軸の体重を読み取って、約2 kg増加しているかどうかを見ます。そして、だいたいは、その増加の割合に満たない場合に、異常が疑われるということになります。

このような、知識を前提とする出題として、他に、午前109の正常分娩児の胎便の問題があります。出生してすぐの場合、胎便は、羊水の影響で、「黒緑色」で粘り気がある、ということをキーワード化しておく必要があります。さらに、移行便は「黄色」がかった便、その後、「黄色顆粒便」となり、黄色い、つぶつぶの状態の便となる、というように、言葉でも、まとめておきたいところです。この問題は視覚素材の問題で、便のカラー写真の選択肢が示されています。

【例題2】 第112回午前88

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉に基づく入院形態で正しいのはどれか。2つ選べ。
1. 応急入院は72時間以内に限られている。
2. 緊急措置入院中の患者は本人と家族が希望すれば退院できる。
3. 措置入院中の患者は精神医療審査会へ退院請求を申し出ることができる。
4. 精神保健指定医は任意入院中の患者について入院継続を必要と判断しても、退院を制限できない。
5. 医療保護入院のためには入院の必要性に関する2名の精神保健指定医の一致した判断が必要である。

【正答】 1、3

ここでは、ポイントをおさえた解説とするために、選択肢ごとの解説は、みなさんで確かめてみてください。

この問題で、特に気をつけていただきたいのは、選択肢4です。「任意入院」での例外規定(精神保健福祉法第21条第3項)があり、指定医の診察の結果、医療および保護のため、入院の継続が必要なときは、72時間に限り、退院させないことができる、ということについて、選択肢が設定されています。このような例外規定もフォローしておかなければなりません。

また、措置入院と緊急措置入院は区別が必要です。さらに、ここでは取り上げられていませんが、精神疾患が原因で重大な他害行為を行い、治療が必要と判断された場合は、「医療観察法」の入院になります。通常の入院とは扱いが異なるため、ごく一部の限られた病院でしか対応はできません。

この問題と同様に、通常とは違う知識が必要な出題として、午後111があります。この問題では、「グループホーム」が正答ですが、これは、介護保険制度における認知症のものではなく、障害者総合支援法による「障害者グループホーム」のことです。

【例題3】 第112回午前110〔改変〕

Aさん(34歳、初産婦)は妊娠39週6日に3,000 gの女児を出産した。分娩後の母児の経過は順調である。
日齢2。Aさんの児の胎外生活への適応は順調に経過している。哺乳回数は1日8回。Aさんは母乳育児を希望しているが、児に乳頭を吸われると痛いと話しており、左右の乳頭に軽度の発赤が認められる。

このとき看護師が観察する項目で優先度が高いのはどれか。

1. 児の体重減少率
2. 乳汁の分泌状態
3. 乳房の緊満状態
4. ラッチオンの状態

【正答】 4

ラッチオン(latch on)が指す内容は、これまでも扱われてきたように思われますが、用語としては、初めて出題されました。すなわち、これは、赤ちゃんが、母親の乳首を吸おうとする動作に合わせて、母親がうまく自分の乳首を赤ちゃんに吸着させる動作のことで、乳頭のみを吸われると、痛く感じるため、乳輪ごと、くわえこむように、深く吸着した状態になるようにするのが正しいとされます。

これと同様に、これまでは、用語として出さないようにしていた事項について、第112回では、用語として明確化していることが注目されます。午前65のトゥレット障害(音声チック)、午前101のウェアリングオフ現象(パーキンソン病の治療に使うレボドパの効果が、薬を飲みはじめてから5年くらいして、薬が効いている時間がだんだんと短くなってしまう現象です。悪化すると、薬効のあるオンと薬効のないオフの時間が繰り返し出現するオンオフ現象に移行します)が出題例となります。

学習方法の工夫も大事です。基礎となる解剖生理学から病態生理学や看護技術へとリンクさせることをドリルの第2回で取り上げましたが、疾患や治療法を勉強しているときは、逆に、その根拠を解剖生理学などに求めてみましょう。もちろん難しいですから、一部で構いません。このような工夫は改定出題基準への対応ともなります。


蜂谷正博 メビウス教育研究所 塾長

蜂谷 正博 メビウス教育研究所 塾長、
東都大学客員教授、岐阜医療科学大学客員教授

日本赤十字看護大学をはじめ全国の看護学部、看護専門学校、薬学部で看護師・保健師・薬剤師国家試験対策講座を担当。著書に『看護・医療系のためのからだと病気の基礎知識』(東京化学同人)など。
元東京大学大学院医学系研究科客員研究員。

メビウス教育研究所:http://www.mebius-ed.co.jp/

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